【刑法事例演習教材】解答例公開!第50問(夜の店Yの悲劇)

はじめに

第50問「夜の店Yの悲劇」解答例:同時傷害の特例と因果関係の認定をめぐる総合検討

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。最新の議論や判例の動向を踏まえて、重要論点を実践的に整理する機会としてご活用ください。

第50問「夜の店Yの悲劇」は、複数人による暴行の結果、被害者が死亡した事案を題材に、同時傷害の特例(刑法207条)の適用要件や、各行為者の行為と結果との因果関係の有無、さらに共同正犯の成立を検討する問題です。複数の暴行が時間的・場所的に接近し、共通の動機と目的に基づいて行われた場合に、それぞれの行為をどのように評価するかが大きな論点となります。

この解答例では、暴行の危険性が結果に現実化したかという因果関係の判断基準や、同一機会性の認定における要素を丁寧に整理したうえで、傷害致死罪および傷害罪の成立を検討しています。複数人による加害行為が交錯する場面における法的責任の評価を学ぶ上で、重要な演習素材となるでしょう。

刑法事例演習教材の解答例として、本記事が皆さんの理解を深め、司法試験対策に役立てば幸いです。

解答例

第1 死亡結果について甲、乙及び丙に傷害致死罪(205条)が成立するか。

1 第1現場におけるAの頭部に対する甲の暴行も、第2現場におけるAの頭部に対する丙の暴行も、Aの脳腫脹の原因となった硬膜下血腫を生じさせうる危険のものであったが、どちらの暴行が当該傷害を生じさせたのかはわからない。

 そこで、同時傷害の特例(207条)の適用によって、死亡結果を帰責させられないか。

 207条は、2人以上が暴行を加えた事案においては、生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことから、立証責任の転換する規定である。

 207条を適用するためには、各暴行が当該傷害を生じさせる危険性を有することに加えて、各暴行が同一の機会に行われたことが必要である[1]

 上述の通り、甲及び丙の暴行は、当該傷害を生じさせる危険性を有する。

 甲の暴行は、令和元年12月6日午後10時頃、A宅の前の自宅で行われている。丙の暴行は、同日午後11時20分ころ、Aの自宅から約20km離れたY店の前の路上で行われた。そのため、両暴行は、1時間20分、20kmのところで行われており、時間的場所的に近接している。また、両者の暴行は、AがX商事所有の自動車を返還せず、また、借金を返済しないまま行方をくらませたと考えて制裁を加える目的で行われているから、動機が共通する。そして、甲および乙は、Aを第2現場に連れて行けば、丙や丁がAを詰問することは十分に予期していたこと、丙および丁も甲および乙がAに対して暴行を加えたことを認識していたことが認められる。そのあめ、暴行の経緯も共通する。そうすると、甲の暴行と丙の暴行は、同一の機会に行われたといえる。

 したがって、甲の暴行と丙の暴行には同時傷害の特例が適用されるから、傷害罪が成立する。

2 乙は、甲と共謀のうえ、第1現場で暴行を行っているから、共同正犯となる。

3 Aは「死亡」しているが、甲と丙の行為との間の因果関係は認められるか。

 因果関係は、偶然的結果を排除して適正な帰責範囲を確定する法的判断である。実行行為は、結果発生の現実的危険性を有する行為であるから、その危険が結果に実現した場合に限り結果の帰責が正当化される。

 そこで、客観的に存在する全ての事情を基礎として、行為の危険が結果に実現化したといえるときに認められる。

 Aは、頭部の打撲傷が原因で生じた硬膜下血腫による脳腫脹により自宅で死亡した。そのため、甲と丙の暴行が死亡結果に決定的な影響を与えたといえる。Aがすぐに病院に行って診察を受けていれば、緊急手術が行われて救命された可能性が高い。しかし、病院嫌いであることの異常性は小さいから、甲と丙の暴行が死亡結果に現実化したといえる。

 したがって、因果関係は認められる。

4 よって、傷害致死罪(60条、205条)が成立し、甲と乙と丙は罪責を負う。

第2 腹部の全治10日の打撲傷について甲ないし丁に傷害罪(60条、207条)が成立するか。

1 Aは、腹部にも全治10日の打撲傷を負っており、それはAの腹部に対する暴行によって生じたものであったが、甲ないし丁の各暴行によっても生じ得るものであって、どの暴行によって生じたものかはわからない。第1で述べた通り、丁の暴行も同一の機会に行われたといえるから、同時傷害の特例は適用される。

2 よって、丁は、傷害罪(204条)の罪責を負う。

参考判例

[1] 最決平成28・3・24刑集70巻3号1頁。

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刑法
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