【刑法事例演習教材】解答例公開!第43問(夕日坂46)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。複数の論点を含む事例を通じて、刑法の理解を深め、答案構成の技術を高める一助としていただければ幸いです。

第43問「夕日坂46」では、電子計算機使用詐欺罪をはじめとする比較的マイナーな論点が中心となります。試験で頻繁に出題されるテーマとは言いづらいものの、情報処理を利用した財産犯の構造を整理し、詐欺罪との異同を明確にすることは、刑法全体の理解を深めるうえで有意義です。

この解答例では、電子計算機使用詐欺罪の成立要件を丁寧に検討するとともに、関係する他の論点についても網羅的に整理しています。頻出でない分野こそ、基礎から体系的に押さえておくことで、思わぬ応用力につながるはずです。

刑法事例演習教材の解答例として、本記事が皆さんの司法試験対策に少しでも貢献できれば嬉しく思います。ぜひご活用ください。

解答例

第1 CD購入行為について

1 アルバイト先の居酒屋で客Aが提示したクレジットカードの券面情報を盗み見てこれらの内容をメモした行為については、「財物」の移転は認められないから、詐欺罪(246条1項)は成立しない。

2 決済情報としてAのクレジットカード情報を入力し、「サイレントマイノリティー」のCD100枚の購入を注文した行為についてB社に対する詐欺罪(246条1項)が成立するか。

(1)CDは財産的価値を有する有体物であるから、「財物」にあたる。

(2)「欺いて」とは、財物の交付に向けて人を錯誤に陥らせることをいい、その内容は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることである。

 B社の通信販売においては、契約の締結、代金決済、発送先リストの作成など、取引に関する事務処理はコンピュータによって自動的に処理されており、人の作業は商品の梱包などの機械的な作業に限定されていた。そのため、購入の注文は、人に向けられたものではないから、「欺いて」にあたらない。

(3)よって、詐欺罪は成立しない。

3 同行為について電子計算機使用詐欺罪(246条の2)が成立するか。

 同罪の客体は、「財産上不法の利益」であるところ、財物であるCDが客体となっている以上、電子計算機使用詐欺罪は成立しない、

4 B社に対する窃盗罪(235条)は成立するか。

(1)「窃取」とは、相手方の意思に反して財物を自己の占有に移転させることをいう。

 甲は、Aの名義で会員登録し、決済方法としてAのクレジットカード情報を入力するなど、不正な方法を用いている。B社は、これを知っていたら、購入を拒否するのが合理的な意思といえるから、甲の購入の注文は、意思に反する。

 甲は、C店でCD100枚が梱包された段ボール箱1箱の交付を受けた。そのため、占有が移転したといえる。

(2) B社の通信販売においては、商品の梱包などの機械的な作業において人の作業が入る。また、C店のアルバイトDが、CDを交付している。これらの者は、甲の注文がB社の合理的な意思に反することを知らないから、道具として利用されたとして、間接正犯が成立する。

(3)甲は、上記事実を認識認容しているから、故意(38条1項本文)、不法領得の意思がある。

(4)よって、窃盗罪(235条)が成立する。

5 決済情報としてAのクレジットカード情報を入力した行為について有印私文書偽造罪(159条1項)が成立するか。

 甲は、インターネットサイトで情報を入力しているから、注文内容の永続性を欠き、「文書」にあたらない。

 よって、有印私文書偽造罪は成立しない。

6 同行為について、「人の事務処理を誤らせる目的」で、権利義務に関する「電磁的記録を不正に作った」といえるから、電磁的記録不正作出罪(161条の2第1項)及び同供用罪(2項)が成立する。

第2 動画データのダウンロード行為について

1 Aのクレジットカード情報を入力送信して、「あなたの番です」の動画データを購入した行為について電子計算機使用詐欺罪(246条の2)が成立するか。

(1)動画データは有体物ではないから、「財物」にあたらない。また、人に対する「欺」く行為がない。したがって、詐欺罪は成立しない。

(2)「虚偽の情報」とは、当該事務処理の目的との関係で、その内容が真実に反する情報をいう[1]

 Aのクレジットカード情報を入力することによって、Aが動画データの購入を申し込んだという情報となるから、これを甲が入力することは、真実に反し、「虚偽の情報」にあたる。

(3)よって、電子計算機使用詐欺罪(246条の2)が成立する。

第3 甲には、①窃盗罪、②電磁的記録不正作出罪、③同供用罪、④電子計算機使用詐欺罪が成立する。①と②と③は、手段と結果の関係にあるから牽連犯(54条1項後段)となる。これと④は別個の行為であるから、併合罪(45条前段)となる。

参考判例

[1] 最決平成18・2・14刑集60巻2号165頁。

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刑法
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