【刑法事例演習教材】解答例公開!第36問(一石三鳥)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。刑法の論点を実践的に整理し、答案作成の参考にしていただける内容を目指しています。

第36問「一石三鳥」では、盗品関与罪の成否が主な検討課題となります。盗品等に関与した者に対して、どのような場合に刑罰が科されるかは、行為の態様や関与の度合いにより大きく異なり、特に「取得」「運搬」「処分」など各行為が構成要件にどのように該当するのかを丁寧に検討する必要があります。

この解答例では、盗品関与罪の成立要件を事実関係に即して検討し、罪数や他の関与者との関係についても整理しています。盗品関与罪の理解を深めるうえで、有益な検討素材となるでしょう。

刑法事例演習教材の解答例として、本記事が皆さんの学習に少しでも貢献できれば嬉しく思います。ぜひご活用ください。

解答例

第1 甲の罪責

 Aの仕事場から、Aが使用する最新型のノートパソコン(以下「本件パソコン」という。)を盗み出した行為について窃盗罪(235条)が成立し、罪責を負う。

第2 乙の罪責

1 甲から本件パソコンの買主を探す依頼を了承して本件パソコンを預かった行為について盗品等保管罪(256条2項)が成立するか。

(1)本件パソコンは、甲の「窃取」行為によって「領得された物」にあたる。

(2)乙は本件パソコンを預かっているから、「保管」にあたる。

(3)甲は、乙に対し、すべての事情を隠し、それが自己所有のパソコンであるように偽っているから、盗品性の認識を欠くのではないか。

 盗品等保管罪の本質は、被害者の追求権侵害と本犯助長的性格にある。そして、盗品等保管罪は継続犯であるから、盗品等であると知った後で保管する行為は、被害者の追求権侵害であり、本犯を助長する。そのため、盗品性の認識が認められる[1]

 乙は、本件パソコンを預かって2日後、自宅において本件パソコンを起動して操作するうち、それがプロデザイナーのものであることに気づき、甲がかつて勤めていたAのデザイン事務所から盗み出したものに間違いないと考えるに至った。そのため、この時点以降は盗品であることを認識しているから、盗品性の認識を欠かない。

(4)よって、盗品等保管罪(256条1項)が成立する。

2 本件パソコンの返還と引き換えに、盗んだ者に30万円、交渉した自分に20万円の報酬を支払うことをAに約束させた行為について盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)が成立するか。

(1)本件パソコンは、甲の「窃取」行為によって「領得された物」にあたる。

(2)盗品等有償処分あっせん罪の本質は、本犯助長的性格にある。そのため、あっせん行為がなされた時点で成立を認めるべきである[2]

 本件パソコンの返還と引き換えに、盗んだ者に30万円、交渉した自分に20万円の報酬を支払うことをAに約束させた時点で、「有償の処分のあっせん」が認められる。

(3)1(3)で述べた通り、盗品性の認識が認められる。

(4)よって、盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)が成立する。

3 「車の中で数えて確認したらパソコンを持ってくる」と持ちかけ、Aから封筒に入った現金50万円を受け取り、そのままホテルから出て立ち去った行為について詐欺罪(246条1項)が成立するか。

(1)「欺いて」とは、財物の交付に向けて人を錯誤に陥らせることをいい、その内容は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることである。

 乙は、パソコンを渡さずにお金だけ受け取ろうと考えている。それにもかかわらず、乙は、Aに対し、ホテルの正面玄関の車止めを指しながら、「車の中で数えて確認したらパソコンを持ってくる」と持ちかけている。そのため、錯誤に陥らせる行為である。もっとも、財物の交付に向けられたといえるか。

 交付行為とは、相手方の錯誤に基づいて財物の占有・利益を移転させることをいう。詐欺罪の本質は、被害者の意思に基づいて財物や利益が移転する点にあるところ、被害者が移転の外形的な事実について認識があれば、被害者の意思に基づくから、窃盗罪と区別できる。

 そのため、移転の外形的な事実の認識があり(主観面)、被害者の行為によって財物や利益が欺罔行為者に直接的に移転したといえるとき(客観面)に交付行為が認められる。

 乙は、ホテルの正面玄関を出ることを持ち掛けている。ホテルを出て、車の中に入ることによって、パソコンの事実的支配が乙に移転することになるから、乙の行為は、Aに対し、占有の移転を許すことを求める行為である。そのため、交付に向けられたといえる。

 したがって、「欺いて」にあたる。

(2)Aは、これを信じて、現金50万円を渡し、そのままホテルを出て立ち去っているから、乙に占有が移転したといえる。したがって、「交付させた」といえる。

(3)乙は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。また、全額を遊興に使ったから、不法領得の意思が認められる。

(4)よって、詐欺罪(246条1項)が成立する。

4 事情を隠して初期化した本件パソコンをBに売った行為について盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)が成立するか。

(1)Aに対する盗品等有償処分あっせん罪が成立するため、不可罰的事後行為となるとも思われるが、追求権侵害となる以上、「有償の処分をあっせん」にあたる。

(2)よって、盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)が成立する。

5 同行為について詐欺罪(246条1項)が成立するか。

(1)乙は、事情を隠して、本件パソコンを20万円でBに売っている。しかし、あっせん行為によって代金を取得することは当然であるから、盗品等であることを隠すことは、重要な事項を偽ったとはいえない。そのため、「欺いて」にあたらない。

(2)よって、詐欺罪は成立しない。

6 Bに売った代金10万円を自らのものとした行為について甲に対する横領罪(252条1項)が成立するか。

(1)金銭の場合、所有と占有が一致するのが原則である。民事法は、取引の安全を保護するが、刑法では、寄託者と受託者の間の静的な安全を保護するという点で役割が異なる。そのため、民事法の原則をそのまま刑法に適用するべきではない。

 したがって、使途を定めて寄託された物件の所有権は寄託者にあると解する。

 そのため、本件パソコンの売却代金の所有権は委託者である甲の所有であるから、「他人の物」に当たる。

(2)甲は、乙に対し、本件パソコンを少なくとも30万円で買ってくれる買主を探してくれるよう依頼し、乙がこれを引き受けた。そのため、委託信任関係に基づき「占有」している。

 本件パソコンは盗品であるため、委託信任関係は民事法上の保護に値しない。もっとも、刑法上は、窃盗犯人とはいえ、他人からの委託信任関係は保護すべきである[3]

(3)「横領」とは、不法領得の意思を発現または実現する行為であり、その実質は、所有権に対する現実的危険を生じさせることにある。

 不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいう。

 乙が、お金を自らのものとすることは、甲の所有権を侵害しており、不法領得の意思が実現したといえる。したがって、「横領」にあたる。

(4)よって、横領罪(252条1項)が成立する。

7 乙には、①盗品等保管罪、②Aへの盗品等有償処分あっせん罪、③Aに対する詐欺罪、④Bへの盗品等有償処分あっせん罪、⑤横領罪が成立する。

 これらは一連の行為とはいえないから、併合罪(45条前段)となる。

参考判例

[1] 最決昭和50・6・12刑集29巻6号365頁。

[2] 最判昭和23・11・9刑集2巻12号1504頁。

[3] 最判昭和36・10・10刑集15巻9号158頁。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
刑法
スポンサーリンク
シェアする
orange463をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました