【刑法事例演習教材】解答例公開!第33問(ナンパ仲間の暴走)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。司法試験における刑法の重要論点を実践的に整理し、答案作成の参考にしていただくことを目的としています。

第33問「ナンパ仲間の暴走」では、現住建造物放火罪における建造物の一体性が認められるか否かという点と、放火行為について緊急避難が成立するかどうかが中心的な検討課題となります。本問は、建物の構造や使用状況から「現住性」や「建造物の一体性」をどう評価するか、また被告人の行為が緊急避難に該当し得るかという複合的な判断を要する事案です。

この解答例では、事例に即して建造物の一体性に関する判例の考え方を踏まえつつ、緊急避難の要件該当性を論理的に検討しています。複数の論点が絡む難問への対応力を養う素材として、ぜひ参考にしてください。

刑法事例演習教材の解答例として、本記事が皆さんの理解を深め、司法試験対策に少しでも貢献できれば幸いです。

解答例

第1 ストーブの灯油を室内に転がっていた衣類にかけて、火をつけ、ダイニング内の壁付近に投げつけた行為について現住建造物放火罪(108条)が成立するか。

1 Dマンションの204号室は、空き部屋であるから、「現に人が住居に使用し」ていない。また、Cはタバコを買いに外出していたから、「現に人がい」ない。

 そこで、Dマンションを一体の建造物として「現に人が住居に使用し」ているといえないか。

 1個の建造物である限り、危険はその全体に及ぶから、1個の建造物の一部に現住・現在部分があれば、その全体が現住・現在建造物となる[1]

 たしかに、Dマンションは、耐火構造の集合住宅として建築されていたから、一室の火災が隣室に延焼する危険は小さい。また、いったん内部火災が発生すれば、新建材の燃焼による有毒ガスなどがたちまち上階あるいは左右の部屋に侵入するおそれは否定できないが、これは延焼の危険ではない。しかし、状況によっては、火勢が他の部屋に及ぶおそれが絶対にないとはいえない構造であったから、延焼の危険が存在する。したがって、Dマンションの物理的一体性が認められるから、「現に人が住居に使用し」ているといえる。

2 「放火」とは、目的物の焼損を惹起させる行為をいう。ストーブ灯油は引火性が高い物質であるから、これに燃えやすい衣服にかけて火をつける行為は、焼損の危険を惹起させる。したがって、「放火」にあたる。

3 「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物が独立して燃焼を継続することをいう。甲の放火に係る火は、Dマンション204号室の壁に燃え移り、同室の一部1.8平方メートルが焼損するに至った。

4 甲は、上記事実を認識認容しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

5 甲の行為は、緊急避難(37条1項)が成立し違法性阻却されないか。

(1)「現在の危難」とは、法益が現実に存在すること、またはその危険が目前に切迫していることをいう。

 甲は、手足をそれぞれロープでしばり、猿轡をかませて南京錠をかけ、携帯電話を取り上げて、監禁状態に置かれ、Cが見張りをしていた。放火行為の時点では、手足のロープが解け、その自由を回復していたが、南京錠をかけられた猿轡のため声を出せず、また、携帯電話を取り上げられていたことからメールなどで警察に助けを求めることもできないままであった。そのため、いまだ監禁状態にあるから、甲の移動の自由に対する侵害が現実に存在している。

 また、Aらが戻ってくれば、輪姦に等しいような性行為を強いられることは必定であったから、性的自由に対する侵害が目前に切迫している。

 したがって、「現在の危難」が存在する。

(2)「避けるため」とは、文言上、避難の意思が必要であるところ、甲は、何とか逃げなければと考えているから、避難の意思が認められる。

(3)緊急避難は、無関係な第三者の法益を侵害するため、逃げることも含めて最も被害が小さい方法が要求される。

 そこで、「やむを得ずにした」とは、その危難を避けるための唯一の方法であって、他にとるべき方法がなかったことをいい、法益が均衡していることを要する。

 北側玄関から脱出するにはダイニングにいるCの見張りをかいくぐる必要があり、他方、南側ベランダから下を見たところ、地上に飛び降りるのは骨折など重症を負うおそれがありあまりに危険だと感じられ、また、隣室のしきりをゆすってみたが、意外に頑丈にできており、やぶることも不可能であった。そのため、火災騒ぎを起こして、Cの注意をそらしてその隙に逃げることが唯一の方法とも思われる。しかし、甲が放火した時点ではCはタバコを買いに外出していたから、北側玄関から脱出することは可能であった。

 したがって、唯一の方法とはいえないから、「やむを得ずにした」とはいえない。

(4)よって、緊急避難は成立しない。

6 誤想過剰避難が成立し、責任阻却されないか。

 故意責任の本質は、反対動機が形成できたにもかかわらず、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難にある。

 故意の対象は、構成要件該当事実及び正当化事由不存在の事実であるから、違法性を認識していない場合は、反対動機を形成できない。したがって、責任故意が阻却される。

 甲は、Cがタバコを買いに外出したことは、寝室内にいたため気づいていなかった。そのため、北側玄関から脱出することができることを認識していないから、違法性該当事実を認識していない。

 放火はCの注意をそらすための小規模なものであるのに対して、甲の危難は性的自由という重大な法益の侵害であるから、法益の権衡が認められる。

 したがって、誤想過剰防衛が成立する。

7 甲は、Cがタバコを買いに外出していたことには、寝室内にいたため気づかなかった。そのため、予見可能性がないから、失火罪(116条1項)は成立しない。

8 よって、甲は罪責を負わない。

参考判例

[1] 平安神宮事件(最決平成元・7・14刑集43巻7号641頁)。

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