【刑法事例演習教材】解答例公開!第30問(暗転した同窓会)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。刑法の重要論点を具体的な事例を通じて整理することができ、司法試験対策として多くの受験生にご活用いただいています。

第30問「暗転した同窓会」では、正当防衛における侵害終了後の反撃行為について、これを一体として評価できるか否かが中心的な論点です。本問は、第28問と同様に防衛行為の時間的限界が問題となる事案であり、侵害の終了時点や防衛の必要性・相当性をめぐる事実認定の重要性を再確認するうえで、非常に良い演習素材といえます。

この解答例は、私が受験生時代に事例ごとの解説を丁寧に読み込みながら作成したものであり、正当防衛の成立要件を具体的にどのように論述するかを学ぶ手がかりになるはずです。ご自身の答案と照らし合わせて、理解の定着と構成力の向上に役立てていただければ幸いです。

刑法事例演習教材の解答例として、本記事が皆さんの司法試験対策に少しでも貢献できれば嬉しく思います。ぜひ参考にしてみてください。

解答例

第1 第1暴行について

1 甲に傷害致死罪(205条)が成立するか。

(1)「傷害」とは、人の生理的機能を侵害することをいうところ、第1暴行は、タイルの敷き詰められた地面で行われており、頭を打てば、気を失うことや脳震盪になることがあり得るから危険な行為である。Bは頭部を打ち、頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血を負っているから「傷害」にあたる。

(2)Bは死亡しており、「傷害」行為との因果関係が認められる。

(3)甲は、上記事実を認識しているから、すくなくとも暴行の故意(38条1項本文)が認められる。

(4)甲には正当防衛(36条1項)が成立し違法性阻却されないか。

 ア 「急迫不正の侵害」とは、法益の侵害が現に存在していることまたは間近に押し迫っていることをいうところ、Bは、Aの髪を離そうとせず、かえって、同女の髪を強く引っ張り回しながら、「馬鹿野郎」と悪態をついていた。そのため、Bの身体に対する侵害が現に存在している。

 乙が「ちょっと待てよ、謝れ。」と声をかけていることが、自招侵害となり防衛行為の前提状況を欠くとも思われる[1]が、乙は有形力の行使に出たわけではないから、侵害行為を誘発するほどの行為ではない。したがって、正当防衛の前提状況は認められる。

 イ 「防衛するため」の行為は、文言上、防衛の意思が必要であり、その内容は、急迫不正の侵害を避けようとする単純な心理状態をいう。

 甲は、憤激して第1暴行を行っているため攻撃の意思を有している。もっとも、何とかBの手を離させようとしているから、Aの身体を防衛する意思も併存している。そのため、防衛の意思を欠かない[2]

 ウ 「やむを得ずにした」とは、防衛行為としての必要性および相当性を有する行為をいう。侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたましんがいされようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない[3]

 甲とBは、共に男性であり、素手で攻撃防御を行っている。甲と乙は、第1暴行に先立ってそれぞれBの腕や手をつかんだり、その顔面や腹部をなぐるなどしたが、Bは、Aの髪を離そうとせず、かえって強く引っ張り回していた。そのため、Aの髪からBの手を放させ、Aの身体を保護するためには、さらに強い殴打行為が必要である。そうすると、Bの顔面を強く殴打した第1暴行は、必要最小限の防衛行為といえるから、「やむを得ずにした」防衛行為といえる。

 エ したがって、正当防衛(36条1項)が成立する。

(5)よって、甲に傷害致死罪は成立しない。

2 乙に傷害致死罪の共同正犯(60条、205条)が成立するか。

(1)共同正犯が認められる根拠は、他人の行為を利用して、結果発生に心理的・物理的因果性を及ぼす点にある。そこで、共謀、正犯性、共謀に基づく実行行為が認められるときに共同正犯が成立する。

 ア 共謀とは、犯罪の共同遂行に関する合意をいい、犯罪の中核部分の意思連絡があればよい。甲と乙は、Aの髪からBの手を離させようとして、2人でBに暴行を加えている。この時点で、Aの髪からBの手を離させるための暴行について黙示の意思連絡がある。そのため、共謀が認められる。

 イ 甲と乙とAは同級生であり、ともにAの身体を保護する意思を持って防衛行為を行なっている。そのため、正犯性が認められる。

 ウ 甲の第1暴行は、Aの手を離させるための行為であるから、共謀に基づく実行行為が認められる。

(2)傷害致死罪は、傷害罪の結果的加重犯であるから、乙は、少なくとも暴行に該当する事実を認識している以上、傷害致死罪の責任を問える。

 したがって、傷害致死罪の共同正犯が成立する。

(3)共謀に基づく甲の行為については正当防衛が成立するから、乙にも正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却される

(4)よって、傷害致死罪の共同正犯は成立しない。

第2 第2暴行

1 第1暴行と第2暴行を一連一体の行為と評価できないか。

 侵害の継続性、第1行為と第2行為の態様の共通性、時間的場所的近接性、意思の連続の有無を総合考慮して、両行為に密接な関連性が認められるときには、一連一体の行為と評価すべきである[4]

 両行為は共に暴行行為であるから、行為態様が共通し、時間的場所的に近接しているから、客観的共通性は認められる。しかし、第1行為の時点では、Aや自己の身体を防衛する意思で暴行を行っているが、Bが転倒しており、再度立ち上がって乱暴を振るう気配がない。そのため、侵害は終了している。甲は、平静さを取り戻し、泣きじゃくるAをかばいつつ、現場を立ち去ろうとした。そのため、防衛の意思を失っている。他方で、乙は、Bの理不尽な攻撃に激怒し、「なめんじゃないぞ。おれらに勝てるつもりでいるのか」「おれは許さないぞ」などと言い、第2暴行に及んでいる。そのため、乙は専ら攻撃の意思で反撃行為を行っている。そのため、意思の連続が認められない。

 したがって、第1暴行と第2暴行を一連一体の行為と評価すべきではない。

2 乙に傷害罪(204条)が成立するか。

(1)「傷害」とは、人の生理的機能を侵害するところ、乙は、意識を失って倒れているBに対しての暴行をしているから、Bの生理的機能を侵害する危険のある行為といえる。

 したがって、「傷害」にあたる。

(2)乙は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

(3)第2暴行の時点では、Bは、転倒しており、再度立ち上がって乱暴を振るう気配はなかった。そのため、Aの身体に対する侵害は終了している。

 したがって、「急迫」不正の侵害が認められないから、正当防衛は成立しない。

(4)よって、傷害罪(204条)が成立する。

3 甲に傷害罪の共同正犯(60条、204条)が成立するか。

(1)第2暴行の時点では、甲は、Bが転倒しており、再度立ち上がって乱暴を振るう気配がないことから、平静さを取り戻し、泣きじゃくるAをかばいつつ、現場を立ち去ろうとしている。乙も、Bが意識を失ったように動かなくなっていることを十分に認識していた。甲と乙との共謀は、Aの髪からBの手を離させるための暴行についてである。そのため、侵害が終了している以上、侵害終了後の第2暴行については共謀の射程が及ばない。

 そこで、新たに共謀が成立しない限り、侵害行為後の暴行に関与していない者は責任を負わない[5]

 乙の第2暴行の際、甲とAは、乙から数メートル離れたところに立って、乙がBに暴行を加えるのを黙って見ていた。その間、甲と乙との間に、何らかの会話が交わされた事実はない。そのため、甲と乙の間には新たな共謀が成立したとはいえない。

(2)よって、甲には傷害罪の共同正犯は成立しない。

第3 罪数

1 甲は何ら罪責を負わない。

2 乙は、第2暴行について傷害罪が成立し、罪責を負う。

参考判例

[1] 最決平成20・5・20刑集62巻6号1786頁(ラリアット事件)。

[2] 最判昭和50・11・28刑集29巻10号983頁(くり小刀事件)。

[3] 昭和44・12・4刑集23巻12号1573頁(指ねじりあげ)。

[4] 一体性を否定した例として、最決平成20・6・25刑集62巻6号1859頁(勝てると思っているのか)。一体性を肯定した例として、最決平成21・2・24刑集63巻2号1頁。

[5] 最判平成6・12・6刑集48巻8号509頁(デニーズ事件)。

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刑法
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