【刑法事例演習教材】解答例公開!第19問(週刊だけど「毎朝」)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、答案例を公開しています。

第19問「週刊だけど『毎朝』」では、名誉毀損罪の構成要件と、公共の利害に関する場合の特例が問題となります。本問では、名誉毀損罪の成立要件を満たすかどうかを検討するとともに、刑法230条の2の適用が論点となります。特に、「公共の利害に関する事実」かどうかの判断基準、「専ら公益を図る目的」の有無、「真実性または真実相当性の立証」といった点が答案作成における重要なポイントとなります。

本問の答案作成では、構成要件の検討を丁寧に行った上で、特例の適用の可否について慎重に論じることが求められます。以下の答案例を参考に、論点の整理と答案構成の確認を行ってください。

解答例

第1 記事(1)について

1 記事(1)を掲載した行為について名誉毀損罪(230条1項)が成立するか。

(1)「公然と」とは、摘示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態をいうところ、甲が記事を掲載することにより、不特定または多数人が記事を目にするから、「公然」性が認められる。

(2)甲らは、捜査関係者の発言を借りつつ、AがBを殺害の犯人であることを暗黙の前提としつつ、その人格の悪性等について主張する「事実」が「摘示」された。

(3)「名誉を毀損した」とは、社会的評価を低下させるおそれがある状態を生じさせることをいうところ、人格の悪性を述べることにより、Aの社会的信用が低下するおそれがあるから、「名誉を棄損した」といえる。

(4)もっとも、230条2項によって、処罰が阻却されないか。

 ア 本件記事を掲載した時点においては、Aはまだ起訴されていないから、「公共の利害に関する事実」とみなされる(230条の2第2項)。

 イ 「目的が専ら公益を図ること」の要件は、厳格に要求すると面積の範囲が著しく狭くなり、表現の自由を害するから、「公共の利害に関する事実」の認識に解消すべきである。

 ウ 本件でAの社会的信用を低下させるのは、Aが犯人であるという事実であるから、甲らは、AがBの殺害の真犯人であることを証明する必要がある。しかし、これは困難であるから、「真実であることの証明があった」とはいえない。

(5)そうだとしても、230条の2は、個人の名誉の保護と正当な言論の保障の調整を図る趣旨である。そこで、たとえ真実性の証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、責任故意が阻却される[1]

 甲らは、多くのメディアが報道していることから、AがB殺害の真犯人であることは間違いないと考えている。しかし、報道が間違っている可能性を否定できない。また、ある者が実際に犯罪を行ったことと、この者に対して他者から犯罪の嫌疑がかけられていることは、事実として全く異なるものである[2]

 そのため、誤信したことについて相当の理由があるとはいえないから、責任故意は阻却されない。

2 よって、甲には名誉毀損罪(230条1項)が成立し、罪責を負う。

第2 記事(2)について

1 記事(2)を掲載した行為について名誉毀損罪(230条1項)が成立するか。

(1)甲が記事を掲載することにより、不特定または多数人が記事を目にするから、「公然」性が認められる。

(2)甲らは、記事においてCの刑事事件を取り上げているから、Cが業務上横領罪で起訴され、第1審で有罪判決の言渡しを受けたという「事実」を「摘示」したといえる。

(3)第1審で有罪と認定された事実は公知の事実ではあるが、Cが横領行為を行った事実を知らない人に伝播する可能性がある以上、Cの社会的信用を低下するおそれがあるから、「名誉を毀損した」といえる。

(4)もっとも、230条2項によって、処罰が阻却されないか。

 ア いかなる犯罪が行われ、刑事裁判でどのような判決が下されたかは、国民にとっての重要な関心事であるから、「公共の利害に関する事実」にあたる。

 イ 第1の1(4)イで述べた通り、「目的が専ら公益を図ること」の要件は、「公共の利害に関する事実」の認識に解消すべきである。

 ウ 本件事件に関する控訴審判決は、原判決を破棄してCを無罪とした。そのため、Cが横領した事実を甲らが証明することは困難である。

(5)甲は、真実性の錯誤により責任故意が阻却されないか。第1の1(5)の基準で判断する。

 たしかに、甲らは、独自に調査を行ったたわけではない。しかし、これらの事実の存否について、第1審判決の事実認定が正しいと考え、同判決を入手すると、その内容に即して本件記事を作成した。刑事判決の理由中に認定された事実は、刑事裁判における慎重な手続に基づき裁判官が証拠によって心証を得た事実であるから、甲が、確実な資料、根拠に照らして相当な理由があると信じたといえる。

(6)よって、責任故意が阻却され、名誉毀損罪は成立しない。

第3 記事(3)について

1 甲の罪責

(1)記事(3)を掲載した行為について名誉毀損罪(230条1項)が成立するか。

(2)甲は、「公然と」、放火犯人の真犯人はEであることを前提とした「事実」を「摘示」した。

(3)記事においてはEの本名は掲載されていないが、関係者が読めば、犯人とされている者がEのことであることは明らかであった。そのため、Eの社会的信用を低下させるおそれがあるから、「名誉を毀損した」といえる。

(4)その後真犯人としてFが逮捕され、公判において有罪が確定したから、Eが真犯人である事実を証明できない。したがって、230条2項は適用されない。

(5)Eが真犯人であるとの裏付けのための取材は十分に行われてはいなかった。そのため、責任故意は阻却されない。

(6)よって、名誉毀損罪(230条1項)が成立し、甲は、罪責を負う。

2 乙の罪責

(1)甲らの取材に対して、「犯人はEに間違いない」などと言った行為について名誉毀損罪(230条1項)が成立するか。

(2)「公然と」とは、摘示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態をいうが、摘示の直接の相手方が特定かつ少人数であっても、不特定または多数人に伝播する可能性があれば「公然」性は認められる[3]

 たしかに、乙は、甲の取材に答えただけであるため、特定かつ少数者に対して事実を摘示しただけである。

 しかし、甲は、週刊誌の編集者であり、乙の発言を記事にする可能性がある。そうすると、不特定又は多数人に伝播する可能性があるから、「公然」性が認められる。

(2)乙は、甲にEが真犯人である旨の「事実」を「摘示」し、これによって、Eの社会的信用を低下させるおそれがあるから、「名誉を毀損した」といえる。

(3)乙は、甲らが出版関係者であり、自分の発言をそのまま用いて記事を作成する可能性があることを認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

(4)よって、名誉毀損罪(230条1項)が成立する。

参考判例

[1] 最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁(夕刊和歌山事件)

[2] 最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁

[3] 最判昭和34年5月7日刑集13巻5号641頁

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