はじめに
現代社会において、性別や家族の在り方に関する価値観が多様化する中、選択的夫婦別姓や同性婚といったテーマも平等の観点から活発に議論されています。法令が特定の集団に対して合理的な理由に基づかない差別的な取扱いをしているかどうかを判断することは、憲法上の重要な論点であり、司法試験でも頻出の課題です。
本記事では、平等の原則に関する法令の憲法適合性を検討するにあたり、押さえておくべき重要なポイントを整理し、解説します。司法試験の憲法科目で採点者が重視するのは、受験生が憲法の本質的な理解を示し、その理解を基にした説得的な論証ができているかという点です。
論点ごとに重要な検討ポイントをあらかじめ整理することで、採点者に対して憲法の理解を示しやすくなり、また、憲法科目で求められる多角的な主張の展開にも役立ちます。しっかりと準備を整え、試験本番で平等に関する深い理解を答案に反映し、説得力ある論証を展開できるようにしましょう。
検討ポイント
検討対象の設定
憲法14条1項に違反するかを検討するためには、まず、誰と誰が区別されているのかを特定する必要があります。
平等は、表現の自由や職業の自由のように一定の自由権が制約されているか、制約が正当化されるかという問題設定とは異なります。検討対象を明確に設定することは、説得的な答案を作成するにあたり必須ですので、答案上で必ず特定しましょう。
具体的には、以下のような区別をすることが考えられます。
・親を殺した人とそれ以外の人を殺した人
・55歳以上の人と55歳未満の人
・嫡出でない子と嫡出である子
・男と女
判断枠組み
待命処分事件(最大判昭和39・5・27民集18巻4号676頁)は、「右各法条(憲法14条1項)は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条(憲法14条1項)の否定するところではない。」と述べており、合理的な差別は憲法に違反しないと整理することができます。
したがって、「区別が事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づかないときに違憲である」との判断枠組みで検討すればよいと整理できます。
検討密度の検討
「事柄の性質」にあたるのは、判例を整理すると、領域・分野、不利益や負担の質・大きさ、区別事由と考えられるため、これらを踏まえて合理性の検討密度を設定し、合理性の検討を行うべきです。
検討密度の設定は、平等の答案で最も評価されるポイントですので、以下ではどのような視点で検討密度を検討すべきか解説します。
領域・分野
租税(84条)、選挙(47条)、国籍(10条)、家族法(24条2項)、生存権(25条)などの領域・分野の立法においては、政策的な判断や専門技術的な判断が必要となりますので、一般的には、裁判所は立法裁量を尊重すべきであり、合理性の検討密度は緩やかになります。
以下の判例は、かような理由で検討密度を緩やかにしていると読めます。
・租税領域
サラリーマン税金訴訟(最大判昭和60・3・27民集39巻2号247頁)
憲法は、「国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。」
「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」。
・選挙領域
重複立候補制度(最大判平成11・11・10民集53巻8号1577頁)
「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだねている」。
・国籍領域
国籍法違憲判決(最大判平成20・6・4民集62巻6号1367頁)
「憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。」
・家族法領域
非嫡出子相続分規定違憲判決(最大判平成11・11・10民集53巻8号1577頁)
「相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられている」。
再婚禁止期間違憲判決(最大判平成27・12・16民集69巻8号2427頁)
「婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものである。したがって,その内容の詳細については,憲法が一義的に定めるのではなく,法律によってこれを具体化することがふさわしいものと考えられる。」
・生存権領域
堀木訴訟(最大判昭和57・7・7民集36巻7号1235頁)
「憲法25条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう『健康で文化的な最低限度の生活』なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である。」
答案上でも、以上の領域・分野に限らず、立法裁量を尊重すべき場面では、検討密度を緩やかにすべき理由の一つとなり得ます。国会による法令に限らず、大学や政党等の領域でも規則の制定が別異取扱いの合理性が問題となることは想定されますが、このような場合でも、大学の自治や政党の自律的権能を尊重し、合理性の検討密度を緩やかにするということがあり得ます。
不利益や負担の質・大きさ、区別事由
国籍法違憲判決は、区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるときは、裁判所は別異取扱いの合理性を慎重に検討すべきであることを示したと整理することができます。その後の非嫡出子相続分規定違憲判決では、父母の婚姻が子にとって自ら選択・修正できない事項であることから合理性の判断を慎重に行うべきと考えているように読めます。
以上のことから、平等の答案を書く上では、①区別が重要な法的地位に不利益を与えるか、②自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるかという点が重要な検討ポイントであり、これらが肯定できる場合には、合理性の検討密度を厳格に行うという規範を設定するのがよいと思います。
不利益や負担の質・大きさ
法が人々に付与する基本的な権利や地位に不利益な影響を及ぼす区別を指します。ここでは、二重の基準のような発想が採られるべきと考えられており、表現の自由等の精神的自由や選挙権に関する不利益がある場合には、別異取扱いの合理性を慎重に判断すべきといえます。
区別事由
憲法14条後段には、人種、信条、性別、社会的身分又は門地を理由にする差別は許されない旨規定されています。
これらは、例示列挙とされており、その他の区別事由による合理的な根拠がない差別は許されませんが、自らの意思や努力で変えることができない区別事由である可能性が高いです。区別事由が人種や性別に基づくということは、別異取扱いの合理性の検討密度を厳格に行う要素の一つとなります。
ただし、「社会的身分」については注意が必要です。「社会的身分」とは、人が社会において占める継続的な地位をいうと定義されますが、答案上でむやみに「社会的身分」に該当するかという検討をとすることは評価されません。
自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるかを丁寧に検討することで、平等の理解を答案上で示すことができます。
先述の国籍法違憲判決や非嫡出子相続分規定違憲判決では、以下の自由を自らの意思や努力で変えることができないと評価しています。
国籍法違憲判決(前掲)
「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。」
非嫡出子相続分規定違憲判決(前掲)
「父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許され」ない。
目的手段審査
最高裁は、多くの事案で、①ある人たちとある人たちを区別する目的に合理性があると認められ、②この目的を達成する手段に合理性があると認められる場合に、合理的な区別として是認しています。
基本的には、違憲審査基準を設定し、目的の合理性、手段の合理性を検討することになりますが、目的に合理性が認められない場合は、区別が違憲である、手段に合理性が認められない場合は、区別の程度が違憲であるという結論となることには注意が必要です。
まとめ
本記事では、憲法上の平等原則について、特に領域・分野の観点と国籍法違憲判決以降の判例を踏まえた検討ポイントに焦点を当てて解説しました。平等を巡る問題では、個人の権利や集団への取扱いの違いが合理的な理由に基づいているかを、領域ごとの特性や社会的背景を踏まえて判断する必要があります。
特定の集団に対する別異取扱いが憲法の趣旨に照らして合理的かどうかを検討することは、憲法答案で高評価を得るために重要な視点です。司法試験の憲法科目では、領域や分野の特性に応じた多角的な論証と、判例の理解を反映した説得力のある説明が求められます。
平等の原則について理解を深め、答案で明確に論証することで、採点者に憲法の本質的な理解が伝わる答案を目指しましょう。試験本番でもしっかりと応用力を発揮し、説得力のある平等に関する論証を展開できるよう、準備を整えてください。
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