プライバシーと憲法:司法試験で差をつける答案の書き方のポイント

はじめに

 現代社会では、個人情報の保護や監視技術の進展に伴い、プライバシーの自由が憲法上の重要な論点として注目されています。プライバシーに関連する法令が、個人のプライバシーの自由をどのように制限し、公共の利益との関係で制限公権力による行為を正当化できるかを判断することは、過去の司法試験において出題されています。

 本記事では、プライバシーの自由に関する法令の憲法適合性を検討するにあたり、重要なポイントを整理し、解説します。

 司法試験の憲法科目で採点者が重視するのは、受験生が憲法の本質的な理解を示せているか、そしてその理解を基にした説得的な論証ができているかという点です。

 論点ごとに重要な検討ポイントをあらかじめ整理しておくことで、採点者に対して憲法の理解を示すことができ、司法試験の憲法科目特有の異なる当事者からの主張を展開することにも役立ちます。

 事前に準備を整えることで、憲法の深い理解を答案に反映し、採点者に響く説得的な論証を展開できるようにしましょう。

検討ポイント

検討ポイント①:権利設定

個人の私生活上の自由としての枠組み

 日本国憲法には、プライバシーに関する自由が保障されていることは明示されていません。そのため、プライバシーの自由が憲法上保障されるかという点は必ず論じる必要があります。

 判例ではプライバシーの自由については、個人の私生活上の自由として、保障されたものがありますので、答案上でも、個人の私生活上の自由として保障されるかという議論をすべきです。

判例が認めたプライバシーの自由

 具体的に個人の私生活上の自由として判例が明示した例は以下のとおりです。

・みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由(京都府学連事件)

 憲法13条は、「国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」(最判昭和44・12・24刑集23巻12号1625頁)。

・みだりに指紋の押なつを強制されない自由(外国人指紋押捺強制事件)

 「憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許され」ない(最判平成7・12・5刑集49巻10号842頁)。

・個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由(住基ネット訴訟)

 「憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する」(最判平成20・3・6民集62巻3号665頁)。

 以上の判例からは、プライバシーに関する公権力の行為には、情報の取得、情報の開示(特定の第三者に対するもの)、公表(不特定多数の第三者に対するもの)の段階があり、みだりに情報を取得されない又は開示若しくは公表されない自由は私生活上の自由として判例が認めていると整理することができます。

 答案上では、どの段階の行為に関するものなのか、どのような自由を論じるのかを明示することで、採点者に対して受験生の理解をアピールすることができます。

判例の解釈

 京都府学連事件と外国人指紋押捺強制事件では、公権力によるみだりな情報の取得が憲法13条の趣旨に反し許されない旨判示しており、憲法上の保障の程度が低いと評価されます。住基ネット訴訟ではこのような判示はないことから、住基ネット訴訟では憲法上の権利として評価したと読めます。このような判例の差異については、判例の評価が分かれ得るところですが、2つの評価があり得ると整理できます。

 1つは、みだりに情報を取得されない自由には、憲法上の保障の程度が低く、みだりに情報を開示及び公表されない自由には憲法上の保障が与えられるというものです。

 もう1つは、プライバシーの自由に関する判例の蓄積や時代の変遷に伴い、住基ネット訴訟では、みだりに情報の開示及び公開されない自由だけでなく、みだりに情報を取得されない自由についても、憲法上の権利として強い保障が与えられたというものです。

 以上の2通りの評価があり得ると整理しておくことで、答案上での議論を展開する準備ができます。

検討ポイント②:情報の秘匿性

 不法行為に関する事案であり、法令の憲法適合性が問題となった事案ではありませんが、判例では、情報の秘匿性に応じてその取扱いについて明確に区別しています。

前科照会事件

「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」。「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」(最判昭和56・4・14民集35巻3号620頁)。

早大名簿提出事件

 「学籍番号,氏名,住所及び電話番号は,早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって,その限りにおいては,秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない」。「しかし,このような〔単純〕個人情報についても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」。「このようなプライバシーに係る情報は,取扱い方によっては,個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから,慎重に取り扱われる必要がある(最判平成15・9・12民集57巻8号973頁)。

 前科照会事件では、前科情報について、各別の慎重さが要求されると述べた一方で、早大名簿提出事件では、慎重に取り扱われる必要があると述べています。このことから、情報の秘匿性が高いかという点ついては、重要な検討のポイントとなります。

 個人情報保護法では、「要配慮個人情報」として、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいうと定義されています(第2条3項)。これに例示される情報は、秘匿性が高い情報であって、要保護性が高く、厳格な判断枠組みによって憲法適合性を判断します

 他方で、住所、氏名等、個人を識別するための情報は、上記の情報と比べると秘匿性が低く、厳格な判断枠組みを採用しにくいといえます。

 もっとも、ある情報それ自体から秘匿性の高い情報とはいえない場合でも、別の情報と結びつくことがあり得るため、検討が必要です。

GPS判決

 GPS捜査は、「個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、公権力による私的領域への侵入を伴う」ことを、GPS捜査が強制処分に該当することの理由としています(最大判平成29・3・15刑集63巻7号868頁)。

 GPS判決を参考にすると、ある情報それ自体から秘匿性の高い情報とはいえない場合でも、情報を継続的、網羅的に把握することができる場合には、そこから取得される情報が秘匿性の高い情報と結びつき、情報の管理には格別の慎重さが要求され、厳格な判断枠組みによって憲法適合性を判断するという枠組みを採用するということがあり得ます。

 したがって、ある情報が秘匿性の高い情報と結びつくかという点は、判断枠組みを設定するにあたり、重要な検討ポイントとなります。

検討ポイント③:情報が適切に管理されているか

 以上の情報の秘匿性を踏まえて違憲審査基準を設定し、あてはめをしていくことになりますが、違憲審査基準へのあてはめは事案に応じた判断が求められ、単なる事前準備だけでは対応が難しいのが実情です。

 一般的な違憲審査基準と同様に、目的の検討、手段の合理性・必要性の検討を行うことが必要ですが、手段の必要性の検討において、情報が適切に管理されているかという点を検討する必要があります。この点を整理できている受験生が少ないことから、情報が適切に管理されているかを検討することで採点者に憲法の理解を示すことができます。

 住基ネット訴訟判決は以下のように情報が適切に管理されているのかを検討しています。

「住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等は,①法令等の根拠に基づき,②住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。③住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。」(前掲)

 住基ネット訴訟以降も、下級審判決ではありますが、Nシステム事件(東京地判平成19・12・26訴月55巻12号3430頁)でも、情報が適切に管理されているかを検討されています。

まとめ

 本記事では、プライバシーの自由に関する法令の憲法適合性を判断する際の重要なポイントを整理しました。

 採点者が重視するのは、受験生が憲法の理解を示し、その理解を基に複数の当事者の主張を踏まえた説得力のある論証を展開できるかどうかです。論点を事前に整理し、重要な判例や判断枠組みを押さえておくことで、答案に一貫性を持たせることが可能です。

 情報の取得段階なのか、開示又は公表の段階なのかを明らかにすること情報の秘匿性適切な管理が行われているかは、必ず検討する必要があるポイントですので、しっかりと理解する必要があります。

 準備を怠らず、試験本番では状況に応じた思考力を発揮することで、採点者に響く質の高い答案を作成しましょう。しっかりとした基礎固めと応用力を兼ね備えた論証で、司法試験の憲法科目を攻略してください。

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