【刑法事例演習教材】解答例公開!第1問(ボンネット上の酔っ払い)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、私が受験生時代に作成した、井田良先生ほか編著『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問の事例の答案例を公開します。

この教材は、司法試験対策において刑法の思考を深めるのに最適な一冊であり、多くの受験生が取り組んでいる演習書です。

しかし、この教材は著名な教授陣による解説がされていますが、答案例は載っていないため、「実際にどう答案を書けばよいのか分からない」、「インプットのために答案例がほしい」と考える受験生が多いのではないでしょうか。かつて受験生だった私は、司法試験の前に読み直すためのまとめノートを作成し、同時にアウトプットを行う学習をしており、解説を読み解きながら試行錯誤し、自ら答案例を作成し続けることで、答案作成の型を習得していったのをよく覚えています。

このサイトでは、私が受験生のときに作成した刑法事例演習教材の全52問の事例について作成した答案例をそのまま公開します。これにより、具体的な答案のイメージをつかんだり、ご自身の答案と比較して課題を見つけたりすることができるでしょう。

司法試験の合格を目指す道のりで、この答案例が少しでもお役に立てば幸いです。ぜひ参考にしてみてください!

第1回は、第1問「ボンネット上の酔っ払い」です。正当防衛の理解に役立つ問題ですので、是非検討してみてください。

答案例

第1 Aの顔面を手拳で殴打した行為について、暴行罪(208条)が成立するか。
1 「暴行」とは、不法な有形力の行使をいうところ、甲が顔面を殴打した行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使といえる。したがって、「暴行」にあたる。
2 もっとも、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
(1)「急迫不正の侵害」とは、法益侵害が現に存在しているかまたは間近に押し迫っていることをいうところ、本件では、Aは、甲の車の窓から手を入れてきて、甲の胸ぐらを掴もうとしたので、甲の身体に対する侵害行為が間近に押し迫っているといえる。
 したがって、「急迫不正の侵害」が認められる。
(2)「防衛するため」の行為は、防衛の意思が必要であり、その内容は、急迫不正の侵害を避けようとする単純な心理状態をいうところ、甲は、胸ぐらを掴もうとするAの手を払いのけて殴打しているから、「防衛するため」の行為といえる。
(3)「やむを得ずにした」とは、防衛行為としての必要性および相当性を有する行為をいう 。
 本件では、胸ぐらを掴もうとしたのに対し、手拳で顔面を軽く一回殴ったのみであり、危険性は小さい。したがって、必要最小限の行為といえるから、「やむを得ずにした」行為といえる。
(4)よって、正当防衛(36条1項)が成立し、暴行罪は成立しない。
第2 Bに向けて車を進行させた行為について、Bに対する傷害罪(204条)が成立するか。
1 「傷害」とは、人の生理的機能を侵害することをいうところ、Bは、全治1週間の打撲傷を負っているので「傷害」にあたる。
2 もっとも、甲には、故意(38条1項本文)が認められないのではないか。
 故意とは、結果発生の認識・認容をいうところ、本件では、たしかに、道路にBの体を避けて車を進行するのに十分なだけの幅があり、また、仮にBの体に車が接触しそうになってもBが身を避けるだろうから、Bの体に車が接触することはないと考えている。
 しかし、暴行は、接触を要しないから、Bに向けて車を発進させる行為は、客観的に暴行にあたる。そして、甲は、このまま車を進行させるとBに衝突するかもしれないと一瞬思っている。そのため、甲は、Bに向けて車を発進させる行為を認識しているといえるから、暴行の故意は認められる。傷害罪は、暴行の結果的加重犯であるから、暴行の故意があれば足りる。
 したがって、故意が認められる。
3 もっとも、正当防衛(36条1項)が成立しないか。
(1)Bの車からAが降りてきて、棒切れのような物を手にして、「こいつや、こいつや」などと言いながら甲の車に近づいてきた。そして、BもAの後ろから近付いてきた。そのため、AおよびBは、甲に対して危害を加えかねない状況にあるから、甲の身体に対する危険が間近に押し迫っている。
 したがって、「急迫不正の侵害」が認められる。
(2)甲は、第1の行為を行っているから、自招侵害として正当防衛状況を欠くとも思われるが、第1の行為には正当防衛が成立する以上、自招侵害は問題とならない。
(3)甲は、このままでいるとAおよびBから暴行を加えられると考え、A車をボンネット上に乗せたまま自車を発進させようとしているから、「防衛するため」の行為といえる。
(4)甲は、道路にBの体を避けて車を進行するのに十分なだけの幅があり、また、仮にBの体に車が接触しそうになってもBが身を避けるだろうから、Bの体に車が接触することはないと考えている。そのため、Bの身体に対する侵害が小さい手段を採っているから、必要最低限の防衛行為といえる。したがって、「やむを得ずにした」行為といえる
(4)よって、正当防衛(36条1項)が成立し、傷害罪は成立しない。
第3 Aをボンネット上に乗せながら走行し、路上で急ブレーキをかけてAを振り落とした一連の行為について、Aに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。
1 「殺」す行為は、人が死亡する現実的危険のある行為をいうところ、甲は、時速約70キロメートルで国道上を疾走しつつ、急ブレーキを何度もかけたり蛇行運転をしながら焼約2.5キロメートルにわたって走行している。そのため、かなり速いスピードで危険な運転を長期間にわたって行っているといえるから、転落したり、後続車に惹かれるなど、死亡の危険性を大いに有する行為である。したがって、「殺」す行為にあたる。
2 Aは、以上のように、死亡する客観的に危険な行為を行っていることを認識しているから、殺意が認められる(38条1項本文)。
3 上記行為に正当防衛(36条1項)は成立するか。
(1)第2と同様に、「急迫不正の侵害」と「防衛するため」の要件はみたす。
(2)「やむを得ずにした」とは、防衛行為としての必要性および相当性を有する行為をいう。侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない 。
 甲は、Aからの侵害行為に対して高速で急ブレーキ、蛇行を繰り返す運転は妥当ではなく、低速で近くの交番等に向かい、助けを求めることが可能であったであろうから、相当性は認められない 。
 したがって、「やむを得ずにした」行為とはいえないから、正当防衛は成立しない。
4 よって、殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。
第4 甲の行為には殺人未遂罪が成立し、過剰防衛(36条2項)による任意的減免を受ける。

参照判例

・最判昭和46・11・16刑集25巻8号996頁(くり小刀事件)

・昭和44・12・4刑集23巻12号1573頁(指ねじりあげ)

・ 京都地判平成15・12・5公刊物未登載

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