【刑法事例演習教材】解答例公開!第4問(黄色点滅信号)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか編著『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した答案例を公開しています。

今回は第4問「黄色点滅信号」です。テーマは過失犯です。注意義務やその具体的な内容をどう判断するかが問われています。この答案例が、具体的なイメージを得る助けとなり、答案作成のヒントを提供できれば幸いです。

司法試験合格に向けたアウトプット学習の一環として、ぜひ参考にしてみてください!

答案例

第1 交通整理が行われておらず、見通しの悪い交差点に、時速約30キロメートルないし40キロメートルの速度で進入した行為について過失運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)が成立するか。
1 「必要な注意を怠り」とは、過失をいい、過失とは、予見可能性を前提とする結果回避義務違反をいう。
(1)予見可能性とは、一般人の注意能力を基準として特定の構成要件的結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分を具体的に予見できることをいう 。
 たしかに、対面信号機が黄色灯火の点滅を表示している際、交差道路から、一時停止も徐行もせず、時速約70キロメートルという高速で進入してくる車両がありうるとは、通常想定し難いといえる。しかし、徐行をしないで交差点に進入することによって、交差道路から車両が進入し、衝突するという可能性は一般人にとって予見できるから、予見可能性が認められる。
(2)道路交通法42条は、「左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとするとき」には、車両に対し徐行すべき義務を定めている。甲は、交通整理が行われておらず、見通しの悪い交差点に進入しようとしているから、時速10キロメートルないし15キロメートルに減速して交差点に進入する義務を負う。
(3)それにもかかわらず、甲は、何ら徐行することなく、時速30キロメートルないし40キロメートルの速度で進入を続けたから、結果回避義務違反が認められる。
(4)したがって、甲の行為は「過失」があり、「必要な注意を怠り」にあたる。
2 出会い頭の衝突により、自車後部座席に座っていた乗客のBが車外に放り出され、脳挫傷により「死」亡した。甲の過失行為と死亡の間に因果関係は認められるか。
 過失犯においては、合理的な疑いを超える程度に結果回避が可能であったときに因果関係が認められる。
 当時は夜間であったから、たとえ相手車両を視認したとしても、その速度を一瞬のうちに把握するのは困難であったと考えられることから、急制動の措置を講ずるのが遅れる可能性も否定できない。そのため、衝突を回避することが間違いなくできたと断定することには困難があると見られたから、合理的疑いを超える程度に結果回避が可能とはいえない。
 したがって、甲の過失行為とBの死亡結果との間の因果関係は認められない。
3 よって、過失運転致死罪は成立しない。
第2 甲は、何ら罪責を負わない。

参考判例

・札幌高判昭和51・3・18判時820号36頁(北大電気メス事件)

・東京地判平成13・3・28判時1763号17頁(薬害エイズ帝京大学病院事件)

コメント

タイトルとURLをコピーしました