【刑法事例演習教材】解答例公開!第38問(自転車泥棒)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。刑法の重要論点について、具体的な事例を通じて理解を深め、実践的な答案作成力を養うことを目的としています。

第38問「自転車泥棒」では、窃盗罪の成否において鍵となる「占有」の認定が主要な論点となります。誰が自転車の占有者であったのかを事実に即して丁寧に判断する必要があり、これにより犯罪の成否が大きく左右される典型的な事案です。加えて、親族相盗例の適用や、自力救済にあたる行為の違法性も検討すべき重要なポイントです。

この解答例では、判例の枠組みに沿って占有の意義と認定基準を整理し、あわせて親族間における財産犯の特例や、正当な権利行使と違法な自力救済の区別についても論理的に検討しています。複数の基本論点が交差するこの問題を通じて、事実認定の精度と法的評価力を高めてください。

刑法事例演習教材の解答例として、本記事が皆さんの司法試験対策に少しでも貢献できれば幸いです。ぜひ参考にしてみてください。

解答例

第1 甲の罪責

1 Aの自転車に乗って帰った行為について窃盗罪(235条)が成立するか。

(1)「他人の財物」とは、他人の占有する他人の所有物をいう。占有とは、財物に対する事実的支配をいうところ、財物に対する占有の有無は、財物に対する事実的支配と占有の意思から社会通念に従って判断する。

 たしかに、令和元年12月20日の晩は、従業員が自転車を運び入れるのを失念し、客は全て自らのバイクや自転車で帰ったため、Aの店の自転車だけが公道上に放置された状態になっていた。また、自転車は施錠されていない状態であった。そのため、客観的にAの事実的支配が弱い場所に置かれていたといえる。また、Aの店はB駅から歩いて間もないところにあったが、午前0時30分と深夜であり、タクシーも出払っていたから、持ち出しに対する心理的な障壁は小さい。そうすると、Aの事実的支配が弱いとも思われる。しかし、自転車が放置されていた電柱付近には、店の営業時間内には、事実上、Aの店の駐輪場であるかのように、Aの店を訪れる客が自転車やバイクを駐輪・駐車している実態があり、また、修理に出す机などAの店の物件が、営業時間外も含めて、常に仮置きされていた。そのため、Aが意識的に自転車を置いていたといえるから、Aの占有意思は強い。さらに、自転車は大きな物であり、持ち運びは容易ではないから、占有は保護されるべきである。

 したがって、社会通念上、自転車に対するAの占有は認められるべきであるから、自転車は、「他人の財物」にあたる。

(2)「窃取」とは、他人の財物を占有者の意に反して自己に移転させることをいうところ、甲は、Aの店から自宅まで乗って行っているから、Aに占有が移転しており、「窃取」にあたる。

(3)甲は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

(4)甲は、Aの占有を侵害して、自転車としての効用を得る意思があるから不法領得の意思が認められる。

2 よって、窃盗罪(235条)が成立する。

3 甲には親族相盗例(244条1項)により、必要的免除されないか。

 親族相盗例の趣旨は、法は家庭に入らずの思想から、親族間の紛争は親族間に委ねるとした政策的な理由に基づく一身的処罰阻却事由である。

 そこで、犯人と占有者、犯人と所有者の両方に親族関係があることが必要である[1]

 甲は、Aの祖父のひ孫にあたる関係にある。そのため、甲とAは7親等の関係にあるから、親族相盗例の適用はない。

4 もっとも、甲は、父親が「駅前のうどん屋のAはわしの親父の兄の子だ」と言った記憶がぼんやりと戻ってきて、親戚のものなら借りてもいいだろうと思っている。そのため、5親等の親族であると認識しているから、錯誤による免除が認められないか。

 親族相盗例は、一身的処罰阻却事由であるから、犯罪事実や違法性阻却事由にはあたらず、故意の対象とならない。また、同条の趣旨は、親族間の紛争は親族間に委ねる点にあるから、客観的に親族関係がない以上、免除を認めるべきではない。

 よって、必要的免除は認められない。

第2 乙の罪責

1 自転車のチェーンロックを壊し、Aの店まで乗って行った行為について窃盗罪(235条)が成立するか。

(1)所有者が権利を回復したければ、交渉や民事裁判など正規の手続を優先すべきである。そのため、「他人の財物」とは、他人の占有する所有物をいい、「占有」(244条)は、民事法上の権原の有無を問わず、事実上占有する場合を含む。

 自転車は、甲の庭にあり、甲が自己のチェーンロックをかけていたから、甲の事実的支配及び占有意思が強い。したがって、甲が占有するといえるから、「他人の財物」にあたる。

(2)乙は、甲の自宅からAの自転車を持ち出しているから、甲の意思に反して自転車の占有を自己に移転させており、「窃取」にあたる。

(3)乙は、窃盗の事実を認識しているから、窃盗の故意(38条1項本文)が認められる。

(4)乙は、甲の占有を排除して、Aの占有を復活させようとする処分意思があるから、不法領得の意思が認められる。

2 乙は、自救行為として違法性が阻却されないか。

 違法性は、社会的に相当でない行為をいうから、必要性と緊急性を考慮して、社会的に受忍される相当の限度を超える限り違法性が認められる。

 たしかに、乙は出前配達用に改造された、甲の家のものとは考えられない自転車を発見し、よく見るとAの店の名前を確かめることができたため、Aに電話したところ、盗難の事実が判明した。そのため、乙は、父親であるAのために自転車の取戻しを行っているにすぎない。

 しかし、乙は、警察に通報することで、公権力による財物取戻しが可能である。それにもかかわらず、面倒だと思われたという理由で取戻しを行っている。そのため、取戻しの必要性・緊急性が認められない。そして、チェーンロックを壊すという、甲の固有の財物の効用を喪失させる手段によって取戻しを行っているから、相当性を欠く。

 したがって、違法性阻却は認められない。

3 よって、窃盗罪(235条)が成立する。

第3 関連設問(丙の罪責)

1 自転車をAの店まで運んだ行為について盗品運搬罪(256条1項)が成立するか。

2 盗品等関与罪の本質は、被害者の追求権侵害と本犯助長的性格にある。そのため、被害者による盗品等の正常な回復を困難にした場合は、被害者の追求権を侵害し、本犯を助長するおそれがある行為であるから、盗品等関与罪が成立する[2]

 丙は、親であるAの依頼を受けて甲に対して交渉を行い、自転車をAの店まで運搬している。そのため、Aの利益のための運搬であるから、被害者の追求権侵害はない。

 したがって、盗品運搬罪は成立しない。

3 よって、丙は、何ら罪責を負わない。

参考判例

[1] 最決平成6・7・19刑集48巻5号190頁。

[2] 最決平成14・7・1刑集56巻6号265頁。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
刑法
スポンサーリンク
シェアする
orange463をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました