【刑法事例演習教材】解答例公開!第31問(招かれざる客)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。刑法の重要論点を実践的に整理し、答案作成の参考にしていただくことを目的としています。

第31問「招かれざる客」では、承継的共同正犯の成否が主要な論点となります。承継的共同正犯については、判例の理解が学説上も分かれる難しいテーマです。私自身は、判例は承継的共同正犯を肯定する全面的非定説の立場を採っていると理解しており、本解答例もその立場から検討を行っています。

この解答例を通じて、判例の位置づけや理論構成を整理しつつ、承継的共同正犯という抽象的で整理の難しいテーマに対する理解を深めていただければと思います。

刑法事例演習教材の解答例として、皆さんの学習に少しでも貢献できれば幸いです。ぜひ参考にしてみてください。

解答例

第1 甲の罪責

1 AがBのビールグラスに睡眠薬を入れ、これをBに飲ませ、Aと協力してBのバッグの中から現金約10万円およびネックレスなどを奪った行為について、昏睡強盗未遂罪(243条、239条)が成立するか。

(1)「昏睡させる」とは、人の意識作用に障害を生じさせて財物に対する支配をなあしえない状態に陥れることをいうところ、Aは、Bに睡眠薬を飲ませたことにより、意識がもうろうとし始めたから、「昏睡させる」行為を行ったといえる。

(2)もっとも、眠り込むまでには至らなかったことから、Aは、後述の通り、暴行を行っている。そのため、財物の占有移転と昏睡させる行為との間の因果関係は認められない。

(3)よって、昏睡強盗未遂罪(243条、239条)が成立する。

2 Bの顔面を手拳で数回殴打し、更に1回足蹴にし、Aと協力してBのバッグの中から現金約10万円およびネックレスを奪った行為について、強盗致傷罪の共同正犯(60条、240条前段)が成立するか。

(1)強盗罪における「暴行」とは、反抗抑圧に足りる程度の不法な有形力の行使をいう。心理的・物理的に財物の奪取行為に対する抵抗ができなくなったと客観的に認めらえるときには、犯行抑圧に足りる程度といえる。

 Bは、気絶するに至っているから、客観的に反抗抑圧に足りる程度の「暴行」が認められる。

(2)Bは、頭部顔面外傷の障害を負い、気絶するに至ったから、「負傷させた」といえ、強盗の機会に行われたといえる。

(3)共同正犯の処罰根拠は、他人の行為を利用して結果発生に因果性を及ぼすことにある。そこで、共謀、正犯性、共謀に基づく実行行為があるときには共同正犯が成立する。

 ア 共謀とは、犯罪の共同遂行に関する合意をいい、犯行の中核部分に意思の連絡があればよい。甲とAは、スナック「東山」の経営者に睡眠薬を飲ませて眠らせ、金品を強取する昏睡計画の計画を立てている。そのため、スナック「東山」に対する昏睡強盗を行うことについて意思連絡があるといえるから、共謀が成立する。

 イ 甲とAは内縁の夫婦である。そのため、両者の地位は対等といえる。甲とAは、遊興費欲しさから昏睡強盗を計画しているから、甲には動機があるといえる。そして、甲とAは協力して金品を奪取しているから、両者が犯行について重要な役割を担っているといえる。したがって、甲には正犯性が認められる。

 ウ Aは、Bが眠るのを待ちきれず、暴行を行っている。Aの行為は、反抗抑圧に足りる程度の暴行であるから、強盗罪(236条1項)に該当する行為である。これと、共謀の内容である昏睡強盗罪は、人の身体・財産を保護法益とする点で共通する。しかし、Aは、甲に相談することなく、Bに暴行を加えて気絶させた上、金品を奪おうと考えている。そして、甲とAの間では、「怪我させたりはしないでおこう」と話し合い、昏睡強盗以外の行為に及んだことはなかった。また、昏睡強盗は、死傷結果を生じさせない点で、反抗抑圧に足りる程度の暴行を手段とする強盗とは手段方法が質的に異なる。そのため、共謀の対象から除外していたといえる。

 したがって、Aが顔面を殴打し、足蹴にした行為には共謀の射程が及ばないから、共謀に基づく実行行為とはいえない。

(4)もっとも、甲は、Aと協力して金品を奪っているから承継的共同正犯によって強盗致傷罪の共同正犯の責任を負わないか。

 共同正犯の根拠は、他人の行為を利用し、結果発生に因果的影響を与えたことにある。後行者は先行者がすでに実行した行為の結果については因果性を有しない。もっとも、後行者の行為が結果発生に因果性を有することはあり得る。

 そこで、後行者の行為が結果惹起に因果性を有する限度で共同正犯が成立する。

 強盗罪の保護法益は、身体と財産権にあるから、先行者の行為によって身体を侵害するとしても、後行者の行為との間の因果性はない。

 甲は、Aに促されて我に返り、Aと協力して、Bのバッグの中から現金約10万円およびネックレスなどを奪っている。これは、「窃取」(235条)にあたる行為であり、甲の行為との因果性が認められる。

 したがって、窃盗罪の限度で共同正犯が成立する(60条、235条)。

3 甲の行為には、昏睡強盗未遂罪と窃盗罪の共同正犯又は強盗罪の共同正犯が成立する。両行為は、平成30年3月6日の午前0時過ぎから午前1時頃までの1時間程度の出来事であり、スナック「東山」で行われているから、時間的・場所的に近接している。そして、スナック「東山」の経営者であるBの財産に向けて行われているから保護法益が共通する。したがって、両行為は、包括一罪となる。

第2 乙の罪責

1 引き出しの中にあった現金数千円を奪った行為について、強盗致傷罪の共同正犯(60条、240条前段)が成立するか。

2 乙が「東山」に現れた時には、Bは既にAの暴行・脅迫により、すっかり抵抗する気力を失い、抜け殻のように座っていた。そのため、承継的共同正犯が成立しない限り、乙に共同正犯は成立しない。

 強盗罪の保護法益は、身体と財産権が保護法益であるから、先行者の行為によって身体を侵害するとしても、後行者の行為との間の因果性はない。

 乙は、引き出しの中にあった現金数千円を奪った。これは、「窃取」(235条)にあたる乙の行為との因果性が認められる。

 したがって、窃盗罪の限度で共同正犯が成立する(60条、235条)。

3 よって、乙は、窃盗罪の共同正犯又は強盗罪の共同正犯の罪責を負う。

第3 関連設例

1 Cが、デパス0.5ミリグラム2錠をDが飲んでいるアルコール飲料に秘かに混入し飲ませた行為について、丙に準強制性交罪の共同正犯が成立するか(60条、178条2項)。

2 共同正犯の処罰根拠は、他人行為を利用して結果発生に因果性を及ぼすことにある。 そこで、①共謀、②正犯意思、③共謀に基づく実行行為があるときに共同正犯が成立する。

 ア 共謀とは、犯罪の共同遂行に関する合意をいい、犯行の中核部分に意思の連絡があればよい。

 丙は、CからDのアルコール飲料にデパスを混入したことを聞いてCの企てを察知し、協力する意思を伝えた。そのため、Dを心神喪失の状態にさせて性交することについての意思連絡があるから、共謀が成立する。

 イ 丙は、Dをベッドに運び、衣服を脱がせたから、物理的に重要な役割を担ったといえる。そして、Cを裏切って警察に知らせたりする旨を確約するなどしたから、Cの心理的に不可欠な寄与をしたといえる。したがって、正犯性が認められる。

 ウ 丙は、デパスを飲ませる行為には関与していないため、承継的共同正犯が成立しない限り、丙に共同正犯は成立しない。

 準強制性交罪は、心身を喪失させる行為と性交する行為の結合犯であるから、心身を喪失させる行為に関与していない丙は、共同正犯が成立しない。

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