はじめに
司法試験受験生の皆さん、こんにちは。
このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した刑法事例演習教材の解答例を公開しています。司法試験に向けた刑法対策において、本教材をどのように読み、どのように答案にまとめるかを学ぶうえで、有益な情報となることを目指しています。
第29問「改ざんされた試験結果・その1」では、公文書偽造罪と虚偽公文書作成罪の区別が主要な論点となります。頻出のテーマとは言いづらいものの、両罪の成立要件を正確に理解し、有形偽造と無形偽造の区別を整理しておくことは、今後類似の事案に対応する力を養ううえで非常に有益です。
本解答例は、私が受験生の頃に、教材の解説を読み解きながら試行錯誤のうえ作成したものであり、皆さんの答案構成の参考として活用いただける内容となっています。ご自身の理解を確認し、論点の把握に役立てていただければ幸いです。
刑法事例演習教材の解答例として、本記事が司法試験対策の一助となれば嬉しく思います。ぜひ参考にしてみてください。
解答例
第1 甲がA市採用試験結果一覧表を自分のパソコンで作成する際に、Dの成績欄に合格ラインを超える虚偽の点数を記載した行為について有印公文書偽造罪(155条1項)の間接正犯が成立するか。
1 「偽造」とは、作成権限がないのに他人名義の文書を作成することをいう。
Bは、A市の総務部人事課長で市の職員採用試験の試験委員であり、実際の試験施行業務と成績に関する文書等の職務に従事していた。そのため、Bは、A市採用試験結果一覧表の作成権限を有する。したがって、「偽造」にあたらないから、有印公文書偽造罪は成立しない。
2 有印虚偽公文書作成罪(156条)の間接正犯は成立するか。
(1)甲は、実際の試験施行業務と成績に関する文書の原案作成業務を行っていた。そのため、文書作成職務に就いている「公務員」(7条1項)であるから、「公務員が、その職務に関し」にあたる[1]。
(2)試験結果を見ると、Dの成績が合格ラインに達していなかった。そのため、Dの成績欄に合格ラインを超える虚偽の点数を記載することは、内容虚偽の文書を作成したことになるから、「虚偽の文書を作成」したといえる。
(3)Bは、採用試験結果一覧表の作成者「B」と印字された横に「B」と刻印した印鑑を押しているから、「公務員の印章を使用」した「文書」である。
(4)甲には「行使の目的」がある。
(5)Bは、甲が持ってきた一覧表の点数を成績原簿と自ら照合していないから、内容虚偽であることを認識していない。そのため、甲は、Bを一方的に利用しているから、間接正犯となる。
(6)よって、有印公文書作成罪(156条)の間接正犯が成立する。
3 作成した採用試験結果一覧表をプリントアウトしてBのところに持参した行為について有印虚偽公文書行使罪(158条1項)の間接正犯が成立するか。
(1)「行使」とは、内容虚偽の文書を内容真実の文書として使用することをいう。
Bは、有印虚偽公文書を、入試関連のファイルに綴じて人事課のファイルボックスに備え置いた。ファイルボックスの文書は、人事課の職員であれば誰でもその業務のために使用することができた。そのため、この時点で内容真実の文書として使用することができるから、「行使」にあたる。
(2)よって、有印虚偽公文書行使罪(158条1項)が成立する。
4 甲には、有印虚偽公文書作成罪の間接正犯と有印虚偽公文書行使罪が成立し、両行為は手段と結果の関係にあるから、牽連犯(54条1項後段)となる。
第2 乙が勝手にFの得点を10点プラスした数字に変えておいた行為について有印虚偽公文書作成罪(156条)の間接正犯が成立するか。
1 Fは、清掃業を営むE株式会社からA市役所に派遣されて清掃作業に従事していた者である。そのため、「公務員」(7条1項)にあたらないし、文書作成業務に関与できないから、「職務に関し」にあたらない。
2 よって、虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しないから、乙は何ら罪責を負わない。
参考判例
[1] 最判昭和32・10・4刑集11巻10号2464頁。
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