【刑法事例演習教材】解答例公開!第23問(即断3連発)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、答案例を公開しています。

第23問「即断3連発」では、強制性交等罪の成否が主要な論点となります。本問では、暴行・脅迫の程度がどのように評価されるか、被害者の抵抗が困難であったといえるか、行為者の認識がどのように影響するかなどを検討する必要があります。強制性交等罪は、被害者の性的自由を保護する重大な犯罪であり、構成要件の正確な理解が求められます。

本問の答案作成では、強制性交等罪の成立要件を正しく整理し、事例の具体的状況にどのように適用するかを慎重に検討することが重要になります。以下の答案例を参考に、論点の整理と答案構成の確認を行ってください。

解答例

第1 背後から飛びかかってBを羽交い絞めにして脅迫し、右手でBの胸をまさぐり、首筋の数箇所にキスした行為について強制わいせつ罪(178条)が成立するか。

1 強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫」は、被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の有形力の行使又は害悪の告知をいう。甲は、羽交い絞めにして、ナイフを持っていることを示している。そのため、物理的に身動きが取れず、身体への危険を感じることから、心理的・物理的に反抗が著しく困難になっているといえる。したがって、「暴行又は脅迫」にあたる。

2 「わいせつな行為」とは、徒に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうところ、胸をまさぐり首筋にキスする行為はこれにあたる。

3 もっとも、甲は、Aを脅迫して性交することを計画しているところ、薄明かりの中を向こうから歩いて来た長髪で小柄のBをAと即断し、上記行為に及んでいる。そのため、甲は、強制性交罪(177条)に該当する行為を認識していたといえる。そこで、抽象的事実の錯誤が問題となる。

 故意責任の本質は、反対動機が形成できたにもかかわらず、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難にある。犯罪事実は構成要件として類型化されているから、認識していた事実と発生した事実が構成要件の範囲内で構成要件が重なり合う限度で故意が認められる。重なり合いの有無は、行為態様及び保護法益の共通性で判断する。

 強制性交罪は、強制わいせつ罪の特別類型であるから、行為態様及び保護法益が共通する。したがって、軽い強制わいせつ罪の限度で故意が認められる。

4 甲は、強制性交罪に該当する行為を計画しているが、性交に至っていない。もっとも、Bは男であるから、膣性交をすることはできない。そこで、不能犯が成立しないか。

 未遂犯の処罰根拠は、既遂結果に至る客観的危険性を発生させた点にある。危険性は、必ずしも物理的・科学的危険を意味するものではなく、社会通念を基礎とする類型的な危険である。また、行為者が危険を認識していたときは危険性があるといえる。

 そこで、行為時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎として客観的に危険性がないとき、不能犯となる。

 Bは、長髪で小柄であるから、薄暗い林道では、一般人は女性であると認識していたといえる。そのため、客観的危険は存在するから、不能犯は成立しない。

5 よって、強制わいせつ罪は強制性交未遂罪に吸収され、強制性交未遂罪(180条、177条)が成立する。

第2 両手でBの胸部分を力いっぱい強く押した行為について強制性交致傷罪(181条1項)が成立するか。

1 Bは、後ろ向きに倒れ、後頭部を背後にあった岩石に強く打ちつけ、そのまま気を失った。そして、頭部に加療40日間を要する重傷を負ったから、「傷」害にあたる。

2 傷害結果は、基本犯に随伴して行われることを要する。本件では、暴行又は脅迫を行った後、林道を走って逃げようとしたがすぐに追いつかれ、つかみ合い押し合うような格好となって傷害を負わせている。そのため、時間的場所的に接着しているから、暴行又は脅迫に随伴して行われたといえる。

3 よって、強制性交致傷罪(181条1項)が成立する。

第3 Bの身体を抱きかかえて10メートルほど運び、繫みの中の奥深くに隠した行為について保護責任者遺棄罪(218条)が成立するか。

1 Bは、意識を失っているから、「病者」にあたる。

2 「保護する責任のある者」は、法令・契約・事務管理・条理・慣習に基づく作為義務に加えて、要扶助者の生命・身体を引受け、あるいは排他的に支配している者に認められる。

 甲は、Bの意識を失わせる先行行為を行っている。しかし、Bが横たわっている場所は、薄明かりの林道であり、通行人が通りかかればこれを見過ごすはずはないと思われる場所であった。そのため、通りかかった人がBの救助を行うことができるから、甲は、Bの生命・身体の危険を排他的に支配しているとはいえない。したがって、「保護する責任のある者」にあたらない。

 そうすると、遺棄罪(217条)が問題となる。

3 217条は、保護責任のない者を処罰する規定であるから、不作為を処罰するための作為義務はない。そのため、217条の「遺棄」は移置のみである。

 甲は、林道を歩く通行人からは容易に発見されることはない繁みの中の奥深くにBを隠した。そのため、Bは、通行人に発見されないことにより、生命・身体への危険が生じるから、「遺棄」にあたる。

4 もっとも、甲は、すっかりBが死んでしまったと思い込んでおり、病院に運ぶなどして医師の治療を受けさせれば、一命を取り留める可能性があるといったことについては、まったく思い至らなかった。そのため、甲は、遺棄罪の事実を認識認容しておらず、死体遺棄罪(190条)の事実を認識認容している。そこで、抽象的事実の錯誤が問題となる。

 両罪は、遺棄である点で行為態様は共通する。しかし、遺棄罪の保護法益は、生命・身体であるのに対して、死体遺棄罪の保護法益は、国民の宗教感情にあるから、保護法益は共通しない。そのため、両罪の重なり合いは認められないから、故意(38条1項本文)が阻却される。

5 よって、遺棄罪も死体遺棄罪も成立しない。

第4 Bのズボンのポケットの中の財布から現金5万円を持ち去った行為について窃盗罪(235条)が成立するか。

1 「窃取」とは、占有者の意思に反して他人の物を自己の占有に移転させることをいうところ、甲は、Bの財物である現金5万円をBの意思に反して自己の占有に移転させているから、「窃取」にあたる。

2 甲は、Bが死亡していると思っているため、占有離脱物横領罪(254条)の故意しか有しないとも思われる。もっとも、Bが死亡していたとしても、Bの生前の占有が保護されれば客観的構成要件を充足するため、窃盗の故意を認めることができる。

 人を殺した後に初めて財物奪取の意思を生じて被害者の財物を領得したときは、財物奪取が死亡後かどうか、行為者の故意があったかを特定するのが困難である。

 そこで、殺害した犯人の奪取行為であり、かつ、殺害行為と財物奪取行為の近接性、被害者の客観的占有状況を考慮して、生前の被害者の占有を保護すべきときに占有が認められる。

 本件でBの意識を失わせているのはBであり、意識を失った直後、その場を立ち去る直前でBのズボンのふくらみに気づき、現金5万円を持ち去っている。そのため、機会の同一性が認められる。また、ズボンのポケット内にあるということは、Bが身に付けていたのだから、Bの占有は保護されるべきである。したがって、Bが死亡していたとしても占有は保護に値するから、窃盗の故意(38条1項本文)が認められる。

3 甲は、遊興費として費消する目的を有しているから、不法領得の意思が認められる。

4 よって、窃盗罪が成立する。

第5 甲には、①強制性交未遂罪、②強制性交致傷罪、③窃盗罪が成立する。①は②に吸収されて包括一罪となる。これと③は別個の行為であるから、併合罪(45条前段)となる。

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