【刑法事例演習教材】解答例公開!第17問(逆恨み)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、答案例を公開しています。

今回の第17問「逆恨み」では、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪、脅迫罪、公務執行妨害罪が主要な論点となります。本問では、業務の適正な遂行を妨げる行為がどの犯罪に該当するのかを検討する必要があります。偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の区別、脅迫罪の成立範囲、公務執行妨害罪の適用要件など、それぞれの構成要件を正確に分析することが求められます。

本問の答案作成では、各犯罪の成立要件を整理し、どの行為がどの罪に該当するのかを適切に分類する力が試されます。以下の答案例を参考に、論点の整理と答案構成の確認を行ってください。

解答例

第1 まったくデタラメな内容の110番通報を、合計30回にわたってくり返し行った行為について偽計業務妨害罪(233条)が成立するか。

1 「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤または不知を利用することをいうところ、甲は、デタラメな内容の110番通報をしているから、県警通信指令本部を欺罔したといえ、「偽計」にあたる。

2 甲の虚偽通報によって、指令を受けたA市警察署のパトカーによる緊急出動が行われている。これによって、本来の警察の公務ができなくなっているから、「妨害した」といえる。

3 「業務」とは、職業その他の社会生活上の地位に基づいて継続して従事する事務をいう。もっとも、警察は「公務員」(7条1項)であるため、甲は、公務を「妨害」しているところ、公務は「業務」にあたるかが問題となる。

 強制力を付与された権力的な公務は、暴行又は脅迫に至らない弱い手段による妨害を排除できる。他方で、非権力的公務は、威力や偽計を排除できる実力はない。そのため、このような非権力的公務を私人の業務と区別する必要はない。

 そこで、非権力的公務に限り、「業務」にあたる[1]

 住民の通報に対応した緊急通報は、強制力を伴って行われるものではないから、非権力的公務である。そのため、「業務」にあたる。

4 甲は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

5 よって、偽計業務妨害罪が成立する。

第2 インターネット掲示板にA市警察署に対する犯罪予告を書き込んだ行為について威力業務妨害罪(234条)が成立するか。

1 「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる威力を示すことをいうところ、インターネット掲示板への書き込みの情報を得たA市警察署の刑事課長Bは、狙いの相手が特定されており、また書き込みが数日にわたって執拗にくり返されていることから、実行の可能性がないとはいえないと考えている。そのため、甲の書き込みは、人の意思を制圧するに足りるから、「威力」にあたる。

2 Bは、部下の警察官たちにこのことを伝えて情報を共有した上で、指定された月曜における自動車警らにあたる警察官の人数を増やし、通常より警戒を強めつつ、パトロールを行った。そのため、いつもより多くの人員で警戒を中心とした活動を余儀なくされているから、本来の業務遂行ができなくなっている。したがって、「妨害した」といえる。

3 自動車警らやパトロールは、強制力を伴って行われるものではないから、非権力的公務である。そのため、「業務」にあたる。

4 甲は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

5 よって、威力業務妨害罪(234条)が成立する。

第3 同行為について脅迫罪(222条1項)が成立するか。

1 「脅迫」とは、人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいうところ、甲の書き込みは、警ら活動を行う警察官の生命・身体に危害を加える内容であるから、畏怖させるに足りる害悪の告知と言え、「脅迫」にあたる。

2 甲は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

3 よって、脅迫罪(222条1項)が成立する。

第4 取調べ中、自分の携帯電話を勢いよく床に向けて投げつけ、壊れた携帯電話の部品を飛び散らせた行為について公務執行妨害罪(95条)が成立するか。

1 Cは、A市警察署の警察官であるから、「公務員」(7条1項)にあたる。

2 Cは取調べを行っているから、「職務を執行」している。

3 公務執行妨害は、公務員の職務執行の円滑な実施を保護法益とするから、職務を妨害するに足りる程度の暴行といえる限り、間接暴行も含まれる。

 甲の行為によって、Cは驚いているから、職務を妨害するに足りる有形力の行使といえ、「暴行」にあたる。

4 甲は、上記事実を認識しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

5 よって、公務執行妨害罪(95条)が成立する。

第5 甲には、①30個の偽計業務妨害罪、②威力業務妨害罪、③脅迫罪、④公務執行妨害罪が成立する。②と③は、「1個の行為」といえるから、観念的競合(54条1項前段)となる。①は、それぞれ併合罪(45条前段)となる。その他も併合罪(45条前段)となる。

参考判例

[1] 最決昭和62年3月12日刑集41巻2号140頁

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