【刑法事例演習教材】解答例公開!第2問(D子は見ていた)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか編著『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、私が受験生時代に作成した答案例を公開しています。

今回は、第2問「D子はみていた」の答案例を公開します。窃盗罪と占有離脱物横領罪の違いを理解することに役立つ問題です。

私自身、司法試験を目指して学習していた頃に、解説を読み解きながらアウトプットを繰り返すことで、答案作成の型を習得していきました。本サイトでは、そうして作成した答案例をそのまま公開しています。具体的な答案のイメージを持ち、ご自身の答案との比較にお役立てください。

司法試験合格への一助として、この答案例が少しでも参考になれば幸いです。ぜひ活用してみてください!

答案例

第1 本件財布を持って、そのまま現場を走り去った行為について、窃盗罪(235条)が成立するか。
1 「他人の財物」とは、他人の占有する物をいう。
 財物に対する占有の有無は、財物に対する事実的支配と占有の意思から社会通念に従って判断する 。
 そして、①財物自体の特性、②財物の置かれた場所的状況、③時間的・場所的近接性、④置き忘れた場所の見通し状況、⑤被害者の認識・行動があることを総合考慮して、現実的支配が直ちにかつ容易に回復できる状態にあるときは、占有が肯定される。
 Aは、自己所有の革製財布を大型スーパーマーケットBの6階のエスカレーター脇の通路に置かれたベンチの上に置き忘れた。その後、Aは、6階から地下1階の食料品売り場に行ったが、食料品に到着した直後に、財布を6階ベンチに置き忘れたことに気が付き、すぐにエスカレーターで6階のベンチまで引き返した。D子の証言によると、Aが財布を置き忘れて立ち去ってから甲が財布を持ち去るまでは、長く見積もっても2分程度の時間しか経過していなかった。そして、同一のスーパーマーケットBの地下1階に移動しただけであるから、甲が財布を持ち去った時点で、Aは、時間的・場所的にそれほど離れていない(③)。
 しかし、客体は財布であり、比較的小さくて軽く移動も容易である(①)。また、財布が置かれていた場所は開店中であって公衆が客などとして自由に立ち入ることのできるスーパーマーケットの6階のベンチであった。そして、本件財布は、誰もいないベンチの上に、手荷物らしき物もなく、本件財布だけがあったから、客観的に置き忘れと考えられる(②)。しかも、Aは、当該財布を置き忘れたのであった(⑤)。そして、時間的・場所的近接性が認められても、財布を6階に置き忘れた状態でAは地下1階まで移動しており、両者の階層が異なるため、置き忘れた物を見渡せる状況になかった(④)。
 以上より、Aの現実的支配が直ちにかつ容易に回復できる状態にはないから、Aの占有は否定される 。
2 よって、窃盗罪は成立しない。
第2 上記行為について遺失物横領罪(254条)が成立するか。
1 「横領」とは、不法領得の意思を発現又は実現する行為をいうところ、甲が、財布を持って立ち去った時点で、不法領得の意思が実現している。
2 甲は、本件財布は、Cがタバコを買う際にベンチに置きっぱなしにしているのだろうと考えているから、窃盗の故意(38条1項本文)で遺失物横領を行っている。
 認識した事実と発生した事実が一致しないときは、構成要件が一致する限度で軽い罪の故意が認められる。
 本件は、財物を自己の占有に移転させる行為を行なっている点で行為態様が共通するし、保護法益も他人の財産である点で同一である。
 したがって、遺失物横領罪の限度で故意が認められる。
3 よって、遺失物横領罪(254条)が成立する。
第3 食料品や高級ワインなど1万2000円相当の商品を購入し、その支払い手段として、A名義のクレジットカードを提示した行為について、詐欺罪(246条1項)が成立するか。
1 「欺いて」とは、財物の交付(財産上の利益の処分)に向けて人を錯誤に陥らせることをいい、その内容は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいう 。
 カードの使用者が名義人でなければ、名義人が支払いを拒否することによりカード会社からの支払いが受けられないおそれがある。そのため、カードの利用者がカード会員本人であるかどうかという事実は、加盟店にとって商品を交付するかどうかを判断するための重要な事実である。Fは、もし、甲がA本人でないことを認識していれば、クレジットカードによる決済に応じることはなかった。そうすると、甲には、カードの名義人でないことを告知する義務があるにもかかわらずこれを怠ったから、「欺いて」にあたる 。
2 売り場の担当係員のFは、甲がA本人であると誤信して、クレジットカードによる決済に応じた。そのため、食料品や高級ワインを「交付させた」といえる。
3 甲は、上記事実を認識認容しているから、故意(38条1項本文)が認められる。
第4 売上伝票にAと署名を行った行為について、有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。
第5 それを交付した行為について、偽造有印私文書行使罪(161条1項)が成立する。
第6 以上より、①遺失物横領罪、②詐欺罪、③有印私文書偽造罪、④偽造有印文書行使罪が成立する。
 ②と③と④は、手段と結果の関係にあるから、牽連犯(54条1項後段)となる。これと①は、別個の行為であるから、併合罪(45条前段)となる。

参考判例

・最決平成16・8・25刑集58巻6号515頁(ポシェット置忘れ事件)

・東京高判平成3・4・1判時1400号128頁

・最決平成22・7・29刑集64巻5号829頁(搭乗券詐取事件)

・最決平成16・2・9刑集58巻2号89頁

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