【刑法事例演習教材】解答例公開!第11問(帳簿の紙吹雪)

はじめに

司法試験受験生の皆さん、こんにちは。

このサイトでは、井田良ほか『刑法事例演習教材[第3版]』(有斐閣、2020年)に収録されている全52問について、答案例を公開しています。

今回の事例11「帳簿上の紙吹雪」では、刑法における公務執行妨害罪と業務妨害罪の成否が論点となります。本問では、職務を遂行する公務員に対する妨害行為が公務執行妨害罪に該当するか、また、業務の適正な遂行を妨げた場合に業務妨害罪が成立するかが問題となります。さらに、両罪の保護法益や適用範囲をどのように考えるべきかについても整理が必要です。

本問の答案作成では、公務の適法性や妨害行為の態様を具体的に検討し、両罪の成立要件を適切に整理することが重要になります。以下の答案例を参考に、論理的な答案構成を確認してください!

答案例

第1 Bから帳簿をいきなりつかみ取り、Bが手で制止しようとしたのを振り払い、Bの面前においてこれをびりびりと破り、窓から紙吹雪のように投棄した行為について、公務執行妨害罪(95条1項)が成立するか。

1 Bは、国税調査官であるから、「公務員」(7条1項)にあたる。

2 Bは、浪速税務署に勤務する財務事務官であり、事業関係帳簿の検討は、「職務を執行」にあたる。

3 Bの「職務」は違法であり、職務の適法性をみたさない。

 公務執行妨害罪の保護法益は、公務にあるところ、公務の保護と人権保障の調和の観点から、暴行・脅迫という抵抗からの保護に値する職務に限定すべきである。

 そこで、職務の執行を有効にする法律上の手続または方式の重要部分を履践していることを要する。

 国税調査官には、国税通則法74条の2により質問調査権が法定されている。しかし、甲は、Bに対して身分証明書を提示するよう申し向けているが、Bは身分証明書を所持していなかったため、提示することができなかった。そのため、甲は、検査を拒む正当な理由がある。したがって、Bは、職務の執行を有効にする法律上の手続の重要部分を履践したとはいえないから、職務の適法性の要件をみたさない。

4 公務執行妨害は、公務員の職務執行の円滑な実施を保護法益とするから、職務を妨害するに足りる程度の暴行といえる限り、間接暴行も含まれる。

 甲の行為は、事業関係帳簿の検討を不可能にする有形力の行使であるから、「暴行」にあたる。

5 仮に、職務の適法性要件をみたす場合、甲は、「身分証明書を見せないなら調査は違法だ」とさけんでいるから、適法性の錯誤が問題となる。

 職務の適法性の要件は、構成要件要素と解する。そうすると、甲は、職務の適法性を基礎づける事実は認識しているから、その評価を誤った違法性の錯誤といえる。

 したがって、故意は阻却されない。

6 よって、公務執行妨害罪は成立しない。

第2 同行為について、威力業務妨害罪(234条)が成立するか。

1 「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいうところ、甲の行為は、事業関係帳簿の検討を不可能にするから、「威力」にあたる。

2 甲は、事業関係帳簿の検討を妨げているから「妨害した」といえる。

3 強制力を付与された権力的な公務は、暴行又は脅迫に至らない弱い手段による妨害を排除できる。他方で、非権力的公務は、威力や偽計を排除できる実力はない。そのため、このような非権力的公務を私人の業務と区別するする必要はない。

 そこで、非権力的公務に限り、「業務」にあたる。

 国税調査官は、「公務員」(7条1項)であるが、物理的な実力の行使によって妨害を排除できる権限はないから、非権力的公務であり、「業務」にあたる。

4 甲は、上記事実を認識認容しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

5 よって、威力業務妨害罪(234条)が成立する。

第3 甲の行為には、威力業務妨害罪が成立し、罪責を負う。

第4 関連設例

1 多数の撒き菱を路上に撒いた行為について、偽計業務妨害罪(233条後段)が成立するか

(1)甲は、事業関係帳簿の検討を妨げているから「妨害した」といえる。

(2)国税調査官には、物理的な実力の行使によって妨害を排除できる権限はないから、非権力的公務であり、「業務」にあたる。

(3)「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤または不知を利用することをいうところ、Bらが公用車に乗り込み門からでる直前に多数の撒き菱を撒いたために、車の前輪がパンクして走行不可能となっている。そのため、不知を利用したといえるから、「偽計」にあたる。

(4)甲は、上記事実を認識認容しているから、故意(38条1項本文)が認められる。

2 よって、偽計妨害罪(233条後段)が成立し、罪責を負う。

参考判例

・最判昭和27・3・28刑集6巻3号546頁

・最決昭和62・3・12刑集41巻2号140頁

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